実践サービスデザイン思考:チームで成果を出すワークショップ設計とファシリテーションの基本
はじめに:サービスデザイン思考におけるワークショップの重要性
サービスデザイン思考をプロジェクトで実践する際、アイデアの創出から顧客理解、プロトタイピング、そして最終的なサービス実現まで、多岐にわたる活動が求められます。その中でも、異なる視点を持つメンバーが一同に会し、短時間で集中的に共創を深めるワークショップは、プロジェクトを加速させる上で非常に強力な手法となります。
しかし、「ワークショップを企画したものの、思うように意見が出ない」「議論が拡散して結論が出ない」「一部のメンバーばかりが発言してしまう」といった課題に直面し、効果的な活用に悩む方も少なくありません。本記事では、サービスデザイン思考を実践するプロジェクトにおいて、チームで具体的な成果を生み出すためのワークショップの「設計」と「ファシリテーション」の基本と実践ノウハウを詳細に解説いたします。
ワークショップ成功の鍵:設計とファシリテーション
サービスデザイン思考におけるワークショップは、単なる会議とは異なります。参加者全員が主体的にアイデアを出し合い、意見を深め、合意形成へと導く「共創の場」です。この共創を最大限に引き出すためには、緻密な「設計」と、場を適切に導く「ファシリテーション」が不可欠となります。
これから、若手社員の方々や、サービスデザイン思考の概念は理解しているものの、実際のプロジェクトでどう適用すれば良いか、チームを巻き込むにはどうすれば良いかという課題をお持ちの皆様が、すぐに実践に役立てられる具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:成果を最大化するワークショップ設計
ワークショップの成否は、その準備段階、つまり設計に大きく左右されます。目的を明確にし、参加者を適切に選定し、効果的なアジェンダを組むことが重要です。
1. 目的とゴールの明確化
ワークショップを始める前に、何のためにこのワークショップを行うのか、何をもって成功とするのかを明確に定義します。漠然とした目的では、議論が拡散しやすくなります。
- 例:
- 「新規サービス企画の初期段階で、ターゲット顧客の課題を深く理解する」
- 「既存サービスの改善点を洗い出し、具体的なアイデアを5つ創出する」
- 「プロトタイプのユーザーテスト結果を基に、次の改善アクションを決定する」
具体的なアウトプット(成果物)をイメージできるレベルで目的を設定し、参加者全員が共有できるように準備します。
2. 適切な参加者の選定と役割分担
ワークショップは多様な視点を取り入れることで価値を発揮します。部署、役職、専門分野が異なるメンバーを選定しましょう。
- 参加者の例:
- ユーザー視点を持つ営業担当者
- 技術的な実現可能性を知る開発者
- ビジネス的な視点を持つ企画・事業担当者
- 顧客サポートの経験があるカスタマーサービス担当者
また、ワークショップを円滑に進めるための役割分担も検討します。 * ファシリテーター: 進行役。議論を促し、時間管理を行う。 * 書記(グラフィックレコーダー): 議論の内容を記録し、可視化する。 * タイムキーパー: 時間配分を管理する。
3. 効果的なアジェンダの作成
ワークショップのアジェンダは、参加者が目的達成に向けてスムーズに進めるための地図です。時間配分、具体的なアクティビティ、休憩などを盛り込み、事前に参加者に共有します。
-
アジェンダ作成のポイント:
- オープニング: 目的の再確認、アイスブレイク(緊張をほぐす簡単なゲームや自己紹介)
- インプット: ワークショップの前提となる情報共有(顧客データ、市場動向など)
- メインアクティビティ: アイデア発想、課題深掘り、意思決定など、目的に合わせた活動
- 例: ブレインストーミング、KJ法、カスタマージャーニーマップ作成、プロトタイピング
- アウトプットの整理: 議論された内容をまとめ、次につながる形にする
- クロージング: 振り返り、次のアクション、感謝の言葉
-
具体的なアクティビティの例:
- アイデア発想: 「100アイデア出し」
- テーマを設定し、1人10分でアイデアをポストイットに書き出す。
- 全員で共有し、類似アイデアをグルーピングする。
- 課題深掘り: 「Why-Why分析」
- 表面的な課題に対し「なぜ?」を5回繰り返すことで、根本原因を探る。
- 意思決定: 「ドット投票」
- 出たアイデアの中から、最も良いと思うものにシール(ドット)を貼って優先順位を決定する。
- アイデア発想: 「100アイデア出し」
4. 準備物と環境の整備
ワークショップをスムーズに進めるために、必要なツールや物理的な環境を事前に準備します。
- 準備物の例:
- ホワイトボード、模造紙
- ポストイット(様々な色やサイズ)
- マーカーペン(油性、水性)
- マスキングテープ、はさみ
- 付箋やホワイトボードに貼るためのテンプレート
- タイマー
- 飲み物、軽食(長時間のワークショップの場合)
- 環境の例:
- 参加者が自由に動き回り、意見を書き出しやすい広いスペース
- ホワイトボードや壁面が十分に使えること
- プロジェクターやモニター(必要な場合)
- 静かで集中できる環境
これらの準備を整えることで、参加者は議論に集中でき、スムーズな進行につながります。
ステップ2:共創を促すファシリテーションの実践
設計されたワークショップを成功に導くのがファシリテーターの役割です。ファシリテーターは、議論の方向性を定め、参加者全員の意見を引き出し、合意形成へと導く調整役です。
1. アイスブレイクで場の空気を作る
ワークショップ開始時の緊張をほぐし、参加者同士のコミュニケーションを促進するために、簡単なアイスブレイクを導入します。
- 例:
- 「隣の人と最近あった良いことを1つ話す」
- 「今日のワークショップに期待することを一言ずつ話す」
- 「共通点探しゲーム」(2人組で共通点を3つ見つける)
2. 議論を活発にする問いかけと傾聴
ファシリテーターは、質問を通じて参加者の思考を深め、意見を引き出します。
- 効果的な問いかけの例:
- 「具体的にどのような状況が考えられますか?」
- 「このアイデアは、ユーザーにとってどのような価値を提供しますか?」
- 「もし〇〇さんの意見を取り入れるとしたら、どのような形になりますか?」
- 「この中で、特に重要だと感じる点は何ですか?」
- 傾聴の重要性: 参加者の発言を注意深く聞き、理解しようと努めます。意見を否定せず、まずは受け止める姿勢が、活発な議論の土台を築きます。
3. 意見の可視化と整理の技術
出された意見は、ホワイトボードや模造紙、ポストイットを使ってリアルタイムで可視化します。これにより、全員が議論の状況を把握しやすくなり、認識のズレを防ぎます。
- 可視化のポイント:
- キーワードを大きく書く
- 関連する意見をグルーピングする
- 矢印や記号を使って関係性を示す
- イラストや図を交えて表現する(グラフィックレコーディング)
4. 時間管理と方向修正
アジェンダに沿って、各アクティビティの時間配分を厳守します。時間が超過しそうな場合は、状況を共有し、延長するか、議論を区切って次に進むかを判断します。議論が本筋から逸れてしまった場合は、優しく、しかし明確に軌道修正を行います。
- 例:
- 「残り5分となりました。この議論を一旦まとめて、次のステップに進みましょう。」
- 「その点も重要ですが、今日のワークショップの目的は〇〇でしたね。一旦その点に焦点を戻しましょう。」
5. 対立意見への対応と合意形成
ワークショップでは、意見の対立が生じることもあります。ファシリテーターは、感情的にならず、双方の意見の背景にある考えやニーズを深掘りし、共通点や落とし所を探る役割を担います。
- 例:
- 「〇〇さんの意見は△△という視点からですね。一方で□□さんの意見にはどのような背景があるのでしょうか。」
- 「それぞれの意見の共通点や、両立できる点を探してみましょう。」
- 「どちらの意見も重要ですが、今回のワークショップの目的からすると、どちらが優先されるでしょうか。」
最終的には、全員が納得できる形で合意を形成するか、次の検討課題として明確化します。
ワークショップを成功させるための追加ノウハウ
事前の共有と期待値調整
ワークショップの目的、アジェンダ、期待されるアウトプットを事前に参加者全員に共有し、期待値を調整します。これにより、参加者は心構えができ、当日スムーズに議論に参加できます。
振り返りと次のアクション設定
ワークショップの最後に、今回の議論で何が解決され、何が次の課題として残ったのかを明確にします。そして、次の具体的なアクション(誰が、何を、いつまでに)を決定し、共有します。これにより、ワークショップが単発で終わらず、プロジェクト全体に継続的な価値を提供できます。
テンプレートの活用
ワークショップで頻繁に使うツールやシートは、テンプレート化しておくと準備が楽になります。
-
アジェンダシート: ``` ## 〇〇プロジェクト サービスデザインワークショップ ### テーマ: [ワークショップの具体的なテーマ] ### 目的: [ワークショップで達成したい具体的なゴール] ### 参加者: [参加者名、所属] ### 日時: [開催日時] ### 場所: [開催場所]
アジェンダ
| 時間 | アクティビティ | 内容 | 担当者 | 準備物 | | :----------- | :---------------------------------------------- | :-------------------------------------------- | :---------- | :------------------ | | 10:00 - 10:10 | オープニング | 目的共有、アイスブレイク | ファシリテーター | なし | | 10:10 - 10:30 | インプット | 顧客データ、市場動向の共有 | 企画担当 | 資料(プロジェクター) | | 10:30 - 11:30 | アクティビティ1: 課題の深掘り | ペルソナの課題を洗い出し、根本原因を探る | 全員 | ポストイット、模造紙 | | 11:30 - 12:30 | アクティビティ2: アイデア発想 | 課題解決のためのアイデアを自由に発想 | 全員 | ポストイット、模造紙 | | 12:30 - 13:30 | 休憩 | ランチ休憩 | なし | なし | | 13:30 - 14:30 | アクティビティ3: アイデアの具体化・絞り込み | 類似アイデアのグルーピング、ドット投票 | 全員 | ポストイット、シール | | 14:30 - 15:00 | アウトプットの整理 | 決定したアイデアのまとめ、次のアクション洗い出し | 全員 | ホワイトボード | | 15:00 - 15:15 | クロージング | 振り返り、質疑応答、感謝の言葉、次回のアクション確認 | ファシリテーター | なし |
次のアクション
- [アクション1]:[担当者]が[期限]までに[内容]を行う。
- [アクション2]:[担当者]が[期限]までに[内容]を行う。 ```
-
議事録テンプレート: 議論のポイント、決定事項、保留事項、次のアクションなどを簡潔にまとめるフォーマット。
まとめ:実践への第一歩を踏み出すために
サービスデザイン思考をプロジェクトで実践する上で、ワークショップはチームの共創を加速させ、具体的な成果を生み出すための強力なツールです。本記事でご紹介した「設計」と「ファシリテーション」の基本ステップと具体的なノウハウを参考に、ぜひ皆様のプロジェクトで実践してみてください。
ワークショップは回数を重ねるごとに、その効果を最大化できます。最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、小さなワークショップから始め、経験を積むことで、チーム全体を巻き込み、より良いサービス創出へと導くことができるようになるでしょう。実践を通じて、貴社のサービスデザイン思考がさらに深化することを願っております。