実践サービスデザイン思考

プロジェクトで使える!カスタマージャーニーマップ作成実践ガイド

Tags: カスタマージャーニーマップ, サービスデザイン思考, ユーザーリサーチ, ペルソナ, フレームワーク

サービスデザイン思考をプロジェクトで実践する上で、ユーザーの深い理解は欠かせません。その強力なツールの一つが「カスタマージャーニーマップ」です。しかし、「聞いたことはあるけれど、どう作れば良いのか分からない」「作ってみたものの、プロジェクトでうまく活用できない」といった課題を感じている方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では、サービスデザイン思考の文脈におけるカスタマージャーニーマップの重要性を改めて確認し、具体的な作成ステップと、チームやプロジェクトで効果的に活用するための実践的なノウハウをご紹介します。

カスタマージャーニーマップとは何か

カスタマージャーニーマップ(Customer Journey Map; CJM)は、ユーザー(顧客)が特定のサービスや製品と関わる一連のプロセスを、時間軸に沿って視覚化したものです。ユーザーの行動、思考、感情、そして各段階で発生する課題や機会などを記述することで、ユーザー体験全体を多角的に捉えることができます。

サービスデザイン思考の初期段階、特に「共感(Empathize)」や「定義(Define)」フェーズにおいて、ユーザー理解を深め、解決すべき本質的な課題を明確にするために非常に有効です。

なぜプロジェクトでカスタマージャーニーマップが必要か

プロジェクトにおいてカスタマージャーニーマップを作成・活用することには、いくつかの重要なメリットがあります。

プロジェクトで使えるカスタマージャーニーマップ作成のステップ

ここからは、実際にプロジェクトでカスタマージャーニーマップを作成する際の具体的なステップを見ていきましょう。

ステップ1:目的と範囲を明確にする

まず、なぜこのカスタマージャーニーマップを作成するのか、その目的を明確にします。 * 特定のサービスのリニューアルのためか? * 新規サービスのコンセプトを検討するためか? * オンボーディング体験の改善のためか?

目的に応じて、ジャーニーの対象となるユーザー(ペルソナ)や、ジャーニーの開始点と終了点、含めるべきフェーズなどが変わってきます。目的と範囲が曖昧だと、マップが漠然としたものになり、活用が難しくなります。チームでこの点をしっかりと合意することが重要です。

ステップ2:ペルソナを設定する

マップは、特定のユーザーの視点から作成することが効果的です。「典型的なユーザー」ではなく、具体的な「ペルソナ」を設定しましょう。ペルソナは、ターゲットユーザーの属性、行動、ニーズ、モチベーション、課題などを詳細に記述した仮想のユーザー像です。

可能であれば、実際のユーザーリサーチ(インタビュー、観察、アンケートなど)に基づいてペルソナを作成することが望ましいです。リアルなペルソナがいることで、ジャーニーマップもより具体的で説得力のあるものになります。

ステップ3:ジャーニーのフェーズを定義する

設定したペルソナが、目的(サービス利用など)を達成するまでに経るであろう主要な段階(フェーズ)を定義します。これは、サービスの特性や目的に応じて異なりますが、一般的には以下のようなフェーズが含まれます。

これらのフェーズを時間軸に沿って並べ、マップの骨組みとします。

ステップ4:ユーザーの行動、思考、感情、課題、機会を収集・整理する

これがジャーニーマップ作成の核心となる部分です。各フェーズにおいて、ペルソナが「何をするか(行動)」、「何を考えているか(思考)」、「どう感じているか(感情)」を洗い出します。

この情報収集には、以下のリサーチ手法が有効です。

収集した情報は、付箋などを使って整理し、各フェーズの下に配置していきます。特に、感情の波(満足している点、不満を感じている点)を捉えることが重要です。感情が大きく落ち込んでいる箇所には、ユーザーの強い課題や改善の機会が潜んでいる可能性が高いです。

また、各タッチポイント(ユーザーとサービスが接する場所やチャネル、例: Webサイト、アプリ、店舗、広告、人との対話など)も併せて記述すると、より具体的に状況を把握できます。

ステップ5:マップとして視覚化する

収集・整理した情報を、設定したフェーズに沿ってマップとして整理し、視覚化します。一般的なマップの構成要素は以下の通りです。

マップの形式は自由ですが、共同編集が容易なオンラインツール(Miro, Muralなど)や、物理的なホワイトボードと付箋などを使うと、チームでワイワイと議論しながら作成できます。テンプレートを活用するのも良いでしょう。

作成したカスタマージャーニーマップを活用するノウハウ

マップを作成するだけでは意味がありません。それをプロジェクトでどのように活用するかが鍵となります。

チームで共有し、共通言語とする

完成したマップをチーム全体で共有し、内容について議論する場を設けましょう。マップを「壁に貼っておくだけ」にせず、日常的な会話や意思決定の際に参照される「共通言語」となるように意識します。

課題と機会に基づきアイデアを発想する

マップで特定されたユーザーの課題や感情の落ち込みに焦点を当て、それを解決するためのアイデア発想ワークショップを行います。「このペインポイントを解消するにはどうすれば良いか?」「この感情の落ち込みを、喜びや驚きに変えるには?」といった問いかけは、新しいサービス機能や改善策を生み出すヒントになります。

仮説検証の基盤とする

マップから得られた「ユーザーは〇〇のフェーズで△△に困っている」といった洞察は、その後の仮説検証の強力な基盤となります。この課題を解決するアプローチ(アイデア)を考案し、プロトタイピングやユーザーテストを通じて検証を進めます。

サービスの継続的な改善に役立てる

サービスはリリースして終わりではありません。ユーザー体験は常に変化します。カスタマージャーニーマップも一度作ったら終わりではなく、定期的に見直したり、新たなリサーチ結果を反映させて更新したりすることで、サービスの継続的な改善に役立てることができます。

実践上の注意点

まとめ

カスタマージャーニーマップは、サービスデザイン思考においてユーザーの深い理解を促し、プロジェクトを成功に導くための強力なツールです。目的を明確にし、具体的なペルソナに基づき、ユーザーリサーチで得た情報をもとにチームで協力して作成することで、その効果を最大限に引き出すことができます。

作成したマップは、単なる図として終わらせず、チームでの共通認識醸成、課題発見、アイデア発想、そしてサービスの継続的な改善活動に積極的に活用していきましょう。この記事が、あなたのプロジェクトでのカスタマージャーニーマップ実践の一助となれば幸いです。